・・・本当にこれでいいのか?
足手まといを切り捨てるのか、弱いものを先に逃がすのか――その選択で、いつも迷うのだ。
パーティー全体の生存率をあげるためなら、誰かの犠牲も止むを得ない。そうすることで、ある意味、生き延びる確立は高くなる。負傷してろくに戦えない者よりは、軽傷の者が残った方がその後のパーティーの戦力にもなる。それはわかっているが、戦力の余力を感じられるうちは、負傷者や戦力の足しにならないものから撤退させるのも方法だろう。
だが、本当に今の状態は余力があるのか? 撤退を始めれば、戦線はあっという間に危うくなるのだ。
撤退のつもりが全滅する危険もある。わかってはいるが、いつも、気が付くと叫んでいた。「先に退け」と。
Key : 撤退の順序
盗賊の女と負傷した戦士が撤退していくのを背後に察して、ほっとする。
迷うくらいならば味方が退避していくのを、援護して戦う方が気が楽な性分なのだ。
これで、後方が完全に退いてから、不意をついて間合いを開けて逃げ伸びる方法しか、生き残る術はなくなった。
敵の攻撃が集中し始める。味方同様に、敵も深手を負って疲弊してきたとはいえ、怪物の攻撃を受け止めるのは苦しい。
隣で戦う女神官にも少しずつ下がるように告げた。女神官が倒れても、もう抱えて連れ帰る余力はないだろう。
次の選択は間違いなく、誰かを見捨てていくことだと、まるで曇り空を見て雨が降るのを予想するようにぼんやりと思った。
その時、後方の通路から、撤退していった仲間たちの争う声が暗い通路に響いた。
伏兵がいたのか、新たな敵か。仲間に訪れた危機、けれどそれは皮肉にも好機となった。
争う声に気をとられた怪物が一瞬みせた隙に、踏み込んで懐に深い一撃を与える。
剣を呑んで怪物は床に膝をついて崩れた。
女神官がすぐさまとどめを刺す。ほっとする間もなく、動かなくなった怪物の体に足をかけて剣を引き抜くと、剣を持ち直して後方の戦闘へ向かおうとして、そこで立ち止まった。
先に撤退していった盗賊の女が、戦闘を離れて駆けてきたのだ。
「こっちはだめ、今のうちに早く」
頭を振って退路を断たれたと告げる彼女の後ろに、もう一人の戦士の姿はない。通路の奥からゴブリンの声がギャッギャッと響いて追いかけてくる。通路に声が反響していて判じかねるが、数は少ないような気もする・・・。
「待て、フィニアン」
続く言葉を言い出す前に、女が「もう遅い」と吐き捨てるように遮った。彼女は、苦戦を強いられた怪物のようやく仕留めたその骸を、何の感慨も持たない様子で跨ぐと、反対側の通路へ逃げ出した。
女神官も躊躇うように振り返ったが、すぐに彼女の後を追った。
迷う間はほとんどなかった。
振り返ることもせずに、そのまま、怪物の骸を踏み越えた。
◆解説◆
戦闘というものは、最期までどうなるかわかりません。
よいと思って講じた策が裏目にでてしまったり、最悪な状況に陥ったとばかり思っていたのに好機となったり、読めない展開が待っています。
今までプレイヤーとして体験してきた中では、負傷した仲間を助けようと思って先に逃がしたはずが、逆に逃がした方が酷い怪我を負ってしまい、かばった相手に助けられる結果をよく見かけました。
大きな傷を負って動けなくなったり、死んだと思って見捨てた仲間が、実は最初に倒れたためになんとか生き延びる結果となったり、その局面ごとにいろいろな選択肢がでてきます。自己犠牲により、誰かを助けることができたりすることもあります。殿をつとめたはいいけれど、敵の攻撃に倒れてしまって、仲間に救助されたりもします。
プレイヤー同士でプレイしていると、生き延びたいと願う反面、見捨てることができずにどうしても救いたいと行動してしまうこともあります。(そして無茶をする(笑)
また、弱い立場というのは、そもそもどういう状態なのか、よく考える必要があります。
女性だから、レベルの低いキャラクターだから、戦士からみたら非力なスペルキャスターであるから・・・そんなことは本当に弱いことではありません。
屈強な戦士であれば戦線に立たなくてはならないし、立てば大きな打撃を一身に浴びる危険もあります。
後方にいる魔術師が遠隔武器や、後方からの不意打ちをうける危険もあります。
お城から無事生還するまでは、死の危険は平等にあるのです。
◇参考
「一人は皆のために、皆は一人のために」
テーマ:TRPG - ジャンル:ゲーム